初夏になり、吹く風も新緑の香りが届く頃「いずれがあやめか、かきつばた」の慣用句でもお馴染みの、かきつばた(杜若)の花が水辺で咲きはじめます。爽やかな風が葉の合間をスッと通り抜けてくるイメージが良く似合い綺麗な青色の花を咲かせます。かきつばた(杜若)とあやめの花は見分けがつかないくらいよく似ています。かきつばた(杜若)は古来より日本にある植物で、江戸時代前半から観賞用に多くの品種が改良された古典園芸植物です。かきつばた(杜若)の開花時期は夏の気配がしてくる初夏、5月~6月頃に、浅い水辺から50cm~70cmの丈を伸ばし深みのある鮮やかな青色の花を咲かせます。かきつばた(杜若)は日本最古の和歌集である万葉集や900年代の書物、伊勢物語にも和歌で詠われ、その魅力は人々に愛され続けています。江戸時代になると、かきつばた(杜若)といえば尾形光琳が描いた屏風絵で金箔六曲屏風「燕子花」と「八つ橋」が名高く、深い青色が印象的に描かれている、かきつばた(杜若)は世界最高峰の作品となっています。
キショウブは、ヨーロッパ~西アジア原産です。アヤメ科の抽水性の多年草で、高さ0.5~1.3mになります。アヤメ属は世界で約300種が知られています。日本には約10種が自生しています。本種以外にジャーマンアイリスなどの園芸品種の総称や、イチハツなどの逸出が報告されています。ハナショウブに似ていまかが、花被片は鮮黄色なのが特徴です。明治30年頃に観賞用として導入され、現在では全国にみられます。繁殖力が強く、海外では水路等の雑草になっており、日本でも水辺の在来種と競合・駆逐のおそれがあります。すなわち、日本のアヤメ属のうち、カキツバタ等の5種類が絶滅危惧種であり、それらの遺伝的攪乱のおそれがあります。また、繁殖力が強いので、水辺の在来種と競合し、駆逐するおそれがあります。一方、水中の窒素、リン、塩類の吸収性に優れ、美しい花を咲かせる植物なので、「ビオトープ創出」等のために利用される事があります。
アヤメの背の低いタイプのもので、三寸アヤメとよく似たお花です。アヤメは日本全国に分布しているので、地域毎に特徴のある個体群が見付かっており、三寸アヤメやこのコアヤメもその1つです。来歴は意外と古いようで、江戸時代には小文目(こあやめ)と呼ばれる小型のアヤメが珍重されていた記述があります。草丈は30cm内外の小型のアイリスですが、日当たりによっては多少伸びるようです。三寸アヤメより少し大きくなるタイプと考えてください。草丈以外の性質は普通のアヤメと同じなので、水捌けの良いやや肥料分の少ない土地を好みます。目立った病虫害はありませんが、低温期に長雨が続くとサビ病が発生することがあります。風通しよく管理することで防げるので、他の草に紛れないよう注意して下さい。
シベリアアヤメと呼ばれていますが、原種のアヤメ属を元に品種改良された園芸種です。コアアヤメやアヤメの原種を基に、アメリカで品種改良した園芸種です。丈夫で育てやすいです。草丈30~120cmで、花径10cm前後で、開花期5月下旬~6月上旬です。2~3年育てた大株は、花が数十輪立ち上がり見事になります。近年、八重咲きが登場し、一段とにぎやかになった。いくつかの品種が知られていて、どれも丈夫で耐寒性が高く育てやすいものです。 お庭で育てるには最適です。このお花の色だと野生種のアヤメと言われても納得しそうな色あいですが、全体的に大柄で花付きが良くて多少日陰になるところでも元気に育ちます。以前は純白や水色の品種を植えているお庭を見掛けましたが、最近はジャーマンアイリスに変わっていたりします。好みが変わったのか住む人が変わったのか、自然も人もいつの間にか移り変わるものだと感じます。
ジャーマンアイリスは虹の花(レインボーフラワー)とも呼ばれるように、色とりどりの花を咲かせ、アイリスの仲間では最も華やかで、非常に多くの品種があります。ヨーロッパに野生する自然交雑種ゲルマニカをもとにして、ほかのいくつかの原種も取り入れて交配育成が行われた系統です。ビアデッドアイリス(ヒゲアイリス)の類に含まれ、花弁のつけ根の近くにブラシのように毛が密生しているのが特徴です。単色のもののほかに、上の弁と下の弁で色が異なるものも多く、ドレスをまとったような優雅な花の姿が個性的で香りもあります。近年は育種が進んで、下の弁が垂れずに横へ大きく広がり、フリルやフリンジが入った品種も多く育てられています。草丈1mぐらいの高性種から10~20cmのミニタイプまで、大きさのバラエティーもあり、開花期の早晩性も見られます。いずれも地際の根茎が丸く大きくふくらんで球根のような形になり、横に這うように伸びて株が広がり、ふえていきます。
ツンと天を向いて立つ大きな蕾、爽やかな風に揺れる虹色の花びら。 ジャーマンアイリスは初夏の明るい光に、こぼれんばかりに大きく、色鮮やかな花を開きます。 花色や花形が豊富で、他の花ではあまり見かけない明るい黄土色や黒に近いような紫褐色の珍しい色彩をもっています。その上、上下の花弁の色の異なるものや、覆輪になるものなど、花色もバリエーションに富んでいて多彩な表情を楽しめます。ジャーマンアイリスは交配により作られた花で、1800年代からヨーロッパで地中海沿岸や小アジア原産の何種類かのアイリスが複雑に交配されて作り出されました。日本ではヨーロッパで初期に作られたゲルニカ種が入ってきたので、以降、ジャーマンアイリスと呼ばれるようになりました。
オランダで改良された球根タイプのアイリスで、改良に長い歴史があります。花はアヤメやカキツバタに形が似ており花色豊富でよく目立ちますが、派手なジャーマンアイリスに比べるとやや控えめな印象の花が多いです。葉はスッと立ち上がり花と株の姿が調和しています。湿った場所を好むハナショウブやカキツバタと違い、やや乾燥した場所を好みます。球根は10~11月ごろ植えます。深さはやや浅植えで庭で3~5cm、鉢で1~2cm程度にします。日当たりと水はけのよい場所が適地で、ジメジメした場所ではうまく育ちません。腐葉土や砂などを使って用土の水はけを確保して、やや高植えにします。酸性土を嫌うので苦土石灰などで中和しておきます。アヤメ科なので連作も避けます。
全体的な特徴として,太い根茎と幅広の剣状の葉が挙げられます。 また,上下の花弁の色彩が異なったコンビネーションがあったり,花弁にフリルが出たり,芳香を備えたりと華麗さ,豪華さを持つ. 健胃,利尿,去痰作用があります。地中海沿岸部を中心に自生する30ほどの原種を交配して誕生した品種群です。また、ジャーマンアイリスについてよくある質問にはアヤメとの見分け方があります。ジャーマンアイリスは多彩な花色を持ちますが、あやめは網目模様の花びらを持ち、紫色が一般的です。大きな違いはジャーマンアイリスには花びらの根元にひげ状の毛があるので、それを見て区別をつけます。毒性は強くないものの、口に入れると下痢や嘔吐を引き起こしたり、胃腸炎になったりします。毒は根茎や球根に多く含まれますが、全草に含まれるため注意が必要です。特に、お庭でペットを遊ばせる場合は、あやめに触れさせないよう十分注意しましょう。
花菖蒲(ハナショウブ)は、アヤメ科アヤメ属の多年草で、6月ごろに花を咲かせます。花の色は、白、桃、紫、青、黄など多数あり、絞りや覆輪などとの組み合わせを含めると5,000種類あるといわれています。系統を大別すると、品種数が豊富な江戸系、室内鑑賞向きに発展してきた伊勢系と肥後系、原種の特徴を強く残す長井系(長井古種)の4系統に分類でき、古典園芸植物でもあります。他にも海外、特にアメリカでも育種が進んでいる外国系があります。江戸系は、江戸ではハナショウブの栽培が盛んで、江戸中期頃に初のハナショウブ園が葛飾堀切に開かれ、浮世絵にも描かれた名所となりました。旗本松平定朝(菖翁)が、60年間にわたり300近い品種を作出し、名著「花菖培養録」を残し、ハナショウブ栽培の歴史は菖翁以前と以後で区切られます。
こうして江戸で完成された品種群が日本の栽培品種の基礎となりました。花びらの間に隙間がある三英咲きが多く、江戸っ子好みのキリッとした粋な感じを持つのが特徴です。また、庭園などに群生させて楽しむ目的を持って改良されてきたため、病気や直射日光に強く栽培も容易で見事な群生美を見せます。伊勢系は、現在の三重県松阪市を中心に鉢植えの室内鑑賞向きに栽培されてきた品種群です。伊勢松阪の紀州藩士吉井定五郎により独自に品種改良されたという品種群です。昭和27年(1952年)に「イセショウブ」の名称で三重県指定天然記念物となり、全国に知られるようになりました。花弁はちりめん状で深く垂れる三英咲きで、女性的で柔和な感じの印象を与えます。鉢植え栽培を主とし葉と花が同じ高さにまとまることが特徴です。
肥後系は、現在の熊本県を中心に鉢植えの室内鑑賞向きに栽培されてきた品種群です。肥後熊本藩主細川斉護が、藩士を菖翁のところに弟子入りさせ、門外不出を条件に譲り受けたもので、「肥後六花」の一つです。満月会によって現在まで栽培・改良が続けられています。菖翁との約束であった門外不出という会則を現在も厳守している点が、他系統には見られない習慣です。しかし大正に会則を破り外部へ広めてしまった会員がおり、現在では熊本県外の庭園などで目にすることができます。草丈は低めで花は堂々たる大輪で、花弁が僅かに重なり合う六英咲きが多く、花、葉とのバランスもよく男性的な風格を備えているのが特徴です。しかし、風雨に弱く群生美の点でやや劣る欠点がありますが、肥後系の特徴を生かし庭植えでもよく咲き競う優れた品種が作出されています。
長井系は、山形県長井市で栽培されてきた品種群です。1962年(昭和37年)、三系統いずれにも属さない品種群が確認され、長井古種と命名されたことから知られるようになりました。江戸後期からの品種改良の影響を受けていない、少なくとも江戸中期以前の原種に近いものと評価されています。現在、34種の品種が確認されています。長井古種に属する品種のうち13品種は長井市指定天然記念物です。江戸系より古い時代に栽培されたもので古種系とも呼ばれています。草丈が高く花形も小さく野性的であるが花色が変化に富み清楚な美しさがあるのが特徴です。花菖蒲(ハナショウブ)は、初夏や梅雨に豪華な花の姿を見せてくれる多年草です。品種が豊富で、ご自分の好みに合うものを探す楽しみもあります。ただ、花菖蒲にはよく似た花がいくつもあるため、見分け方がわからないという方も多いのではないでしょうか。今回は、花菖蒲の特徴や、よく似た花との見分け方、基本的な育て方、管理方法、増やし方などをご紹介します。
花菖蒲は6月から7月にかけて咲く多年草です。日本でもさまざまな品種が育てられてきました。草丈は50cm~100cmで、大きく華やかな花を咲かせます。主な品種は、江戸系や伊勢系、肥後系などに分けられます。ただし、異なるタイプを交配させてつくられた品種もあります。花菖蒲には、アヤメやカキツバタ、ショウブなど、よく似た花がいくつもあります。なんとなく知ってはいるものの、詳しい見分け方がよくわからないという方も多いのではないでしょうか。こちらでは、簡単な見分け方のポイントを解説します。花菖蒲の葉は狭めで、葉脈がはっきりと見えます。葉の中央に筋が1本通っていることも特徴です。アヤメは花菖蒲よりも細い葉で、葉脈は目立ちません。カキツバタも葉脈は目立たないものの、葉は広く薄めです。ショウブの葉は根元がうっすらと赤みがかっており、全体的にツヤがあります。花菖蒲は花びらの色が多彩です。青や紫などのほか、白、ピンク、黄、複色など、さまざまな色の花を咲かせます。花びらの付け根部分が黄色く染まっていることも大きな特徴のひとつです。
アヤメの花びらも付け根が黄色ですが、網目模様があることが異なります。カキツバタの花びらには根本から白い筋が入ります。ショウブは花菖蒲のような花ではなく、黄緑色の肉穂花序をつくる点がもっとも大きな違いです。花菖蒲は湿った土に自生しています。アヤメは乾いた土に、カキツバタは湿った土や水辺に生えます。ショウブは水辺に自生します。見分けるのに困ったときは、どこに生えているかにも着目してみると良いでしょう。花菖蒲は日本の気候に合った植物で、園芸初心者でも育てやすいことがメリットです。お庭に植えて美しい花の姿を観賞しましょう。こちらでは、花菖蒲の基本的な育て方をご紹介します。花菖蒲は基本的に土質を選ばず育ちます。地植えの場合は、庭の土を耕して使うことができます。水はけが良すぎる場合は、ピートモスや完熟たい肥などを加えてみましょう。鉢植えの場合、ご自分で単用土を配合しても良いですが、市販されている草花用培養土を使うと手軽です。花菖蒲の苗は、できるだけ元気の良いものを選ぶことが大切です。葉をよく調べて、変色している部分がないか、折れている部分がないかなどを見てみましょう。虫がついていないか、病害の跡がないかも確かめます。
花菖蒲は湿った土地に自生しますが、根元が完全に水に浸かるような場所に植えっぱなしにするのには適していません。乾き過ぎないように管理すれば、池や川などの近くでなくとも元気に育ちます。一般的な花壇や鉢でも十分に栽培できます。ただし、開花時期だけ水を張って、景観を演出するのは問題ありません。花の時期が過ぎたら水を抜いて管理します。また、日当たりの良さも大切です。花菖蒲は日光を好むため、日陰ではうまく生長しないこともあります。できれば半日以上は日の当たる場所へ植えましょう。ポット苗を購入した場合は、春~初夏、花後の秋などに植えつけましょう。ポットから苗を取り出したら、根鉢を崩さないように植えつけます。作業後は水をたっぷりと与えましょう。植えつけ後、根づくまでは水切れしないように管理します。藁や腐葉土などを敷いて乾燥を防ぐのもおすすめです。根づいた後も、極端に乾燥しないよう注意しておきます。特に、3月頃の発芽から開花までは、土を乾かさないように水やりしましょう。花が終わり、冬になったら水を控えめにしていきます。
花菖蒲は、元肥を少なめにしたほうがよく育つといわれています。最初のうちは施肥を避け、追肥で栄養を補いましょう。特に、9月から10月の間に施肥しておくことで、翌シーズンに元気よく花を咲かせてくれます。また、発芽前や開花後に肥料を少し与えるのもおすすめです。花菖蒲を育てる際は、花後の花がら摘みや定期的な植え替えなどが欠かせません。状況に応じたお手入れのポイントを押さえておきましょう。鉢植えの花菖蒲は毎年、地植えの場合は2年~3年に1回の頻度で植え替えます。花菖蒲を長く植えっぱなしにしておくと、生育が停滞してくるためです。開花後、株分けのついでに植え替えも済ませると良いでしょう。花菖蒲は、一株あたり2~3輪の花を咲かせます。一度咲いた花は2~3日で枯れていくため、咲き終わってしぼんだものは摘み取っていきましょう。花茎ごと切り取ってもかまいません。花菖蒲は宿根草で、何シーズンも育てることができます。初夏や梅雨に咲く花ですが、耐寒性も強く、特別な対策をしなくても冬越し可能なケースが多く見られます。ただし、休眠中であっても極端に乾かしてしまわないように管理することが大切です。
花後しばらくは葉が青々としていますが、冬になると徐々に枯れていきます。地上部が完全に枯れたら刈り取っておきましょう。そのままにしておくと害虫が発生することがあります。また、植えつけ時期が遅い株は根が十分に張っておらず、霜柱によって押し上げられてしまうことがあります。根の露出を防ぐため、藁や寒冷紗をかけておくと良いでしょう。花菖蒲は、株分けや種の採取などで増やすことができます。最後に、花菖蒲の増やし方をご紹介します。花菖蒲は株分けで増やすのが一般的です。立派な花がたくさん咲いた年に行うことで、元気の良い苗をとることができます。適期は開花直後です。株分けが遅くなると、十分に根が張らないまま夏を迎えてしまうことになります。暑さで弱ってしまうことがあるため、できるだけ早めに済ませておきましょう。
咲き終わった株を掘り上げる際は、根を傷つけないように気をつけて作業します。葉は根元から15~30cmほどの長さで切り落とします。葉から出た汁が服につくとシミになって落ちにくいため、汚れても良い服装で取り組みましょう。根の土を落としたら、手で割っていきます。まずは半分に割り、そこから小さく割っていきましょう。根の本数が均等になるよう調整して分けていきます。慣れないうちは無理に株を割り過ぎず、2分割にするだけでも問題ありません。花菖蒲は種を採取してまくことでも増やせます。種が採れるようになるのは開花後です。花がら摘みをせずに種がつくられるのを待ちましょう。種を採ってすぐにまいても良いですが、乾燥させて保存しておき、春にまくこともできます。種まきしてから花が咲くまでは3年ほどかかるため、気長に育てていきましょう。
スイレンは漢字では「睡蓮」と書きます。「睡蓮」の文字を見ると、フランスの画家、クロード・モネ(1840-1926年)の絵画「睡蓮」を思い起こす人もいるでしょう。スイレンはスイレン科スイレン属の植物で、熱帯性と温帯性があります。花が咲いている時期は一般的には5~10月で、花の色は、熱帯性と温帯性による違いはあるものの、赤、白、黄、紫など、多彩です。スイレンは池などに生育する水生植物です。池では、底の泥の中に地下茎(ちかけい)を伸ばし、そこから上に向かって花茎(かけい)を伸ばし、水面から顔を出すように花を咲かせます。夕暮れ時に眠りにつくように花を閉じることから「睡蓮」と呼ばれるようになったといわれます。スイレンに似た植物にハスがあります。ハスを漢字で書くと「蓮」なので、この点でも、スイレンとハスは似ていて、ややこしいです。わかりやすい違いは、花が咲く様子です。スイレンは水面から顔を出すように咲くのに対し、ハスは花茎が水面から上に伸びて花が咲きます。
水面に美しい花を咲かせるスイレンに魅せられた画家がいます。クロード・モネです。印象派の画家として知られるモネは晩年、「睡蓮」を200点あまりも描きました。人生の後半、モネはフランス北部のジヴェルニーに移り住み、庭にスイレンが咲き誇る池をつくりました。日本びいきでもあり、300点もの浮世絵を収集しました。モネは水に映る光を追い求めた画家といわれます。一連の作品「睡蓮」の中にも、池に色鮮やかに咲き誇るスイレンの花々と、水面に映り込んだ樹木や空などが渾然となって、幻想的な世界を作り出しているものがあります。池の近くに行く機会があれば、スイレンの可憐な花々を楽しんでみてはどうでしょうか。あるいは、モネの作品集を図書館で借りるなどして、「睡蓮」を味わってみるのもおすすめです。
蓮(ハス)の花は夏、初夏というには暑くなってから、でもうだるような真夏の暑さになる前という頃に咲き始めます。季節は7月頃です。7月の後半のこともあれば前半のこともあります。その年の気温によって変わります。蓮は水面からすーっと伸びた茎の先に青々とした大きな丸い葉を開かせます。その葉の間から葉よりも高く、さらに茎を伸ばし明るいピンク色の花を咲かせます。蓮には白花種もあります。家庭で育てやすいサイズの小型の「チャワンバス」という種類もあります。蓮の花言葉は「清らかな心」「神聖」です。泥の中から出てきて、清らかな美しい花を咲かせる、蓮の花らしい花言葉です。原産地インドから世界中に広まり、今では様々なモチーフとして使われたりシンボリックに使われることの多い蓮の花はいつ咲くのでしょうか。蓮の花は咲く時間、咲いている期間に特徴があります。
蓮の花は早朝開きお昼には閉じる、そのサイクルで4日間。4日目は夕方まで咲き続け、そのまま花びらを落として散っていきます。4日目になると花びらは開き切り、花芯の黄色の部分が見えるようになってきます。ふっくらとした丸みのあるフォルムを楽しみたいのであれば、午前中の咲き始めの蓮の花を眺めに行きましょう。蓮池の縁に立って花を眺めていると、ふわりと優しい香りが鼻先をかすめることがあります。チャワンバスのような小型種の蓮の花に顔を近づけると、はっきりと爽やかな芳香が確認出来ます。蓮池で蓮(ハス)の花の香りを楽しむのはちょっと難しいようですが、蓮の花には間違いなく芳香があります。触れられないところに咲く花が、確認できない香りを纏って(まとって)いるというのも、蓮の花らしい神秘的な魅力の一つです。
ミズバショウは、日本の中部地方以北からサハリンやカムチャッカに分布するサトイモ科の多年草です。ミズバショウを見学すると、「白い花が奇麗だなあ」といいます。しかし、白い花びらのようなものは、植物学的には花弁ではありません。これは苞(ほう)といって、花を保護するために花の直下につく葉の変化したものです。サトイモ科の苞は、仏像の光背(こうはい)にある火炎のような形をしていることから、仏炎苞(ぶつえんほう)と呼ばれています。ミズバショウの白い苞の中心には、花茎が下から伸びてその先端が棍棒状に膨らんでします。これがたくさんの花が集まった花序(かじょ)です。ミズバショウの場合、肉穂花序(にくすいかじょ)と呼ばれています。
肉穂花序には小さな黄色いブツブツがたくさんついていますが、その一つ一つの花が、ミズバショウの場合は小花(しょうか)と呼ばれる花です。それぞれに4本のおしべと1本のめしべがついています。大きな白い苞の中にある小さな黄色いブツブツをよくみてください。その中にさらに小さなおしべとめしべが付いています。花軸は4月末の花の時期には黄色くみえますが、5月末になると受粉が終わって緑色になって、小さな果実が密集しています。7月になると花軸には、黒い点々のような1ミリメートルにも満たない種が多くできます。そして湿地にその茎が折れて倒れます。花軸は透明なゼリー状になって、その中に種があります。さらに9月になるとそこから芽が出てきます。ミズバショウにも四季の変化があります。
バイカモは日本の固有種で、清流を好む常緑の沈水植物。水底に群生し、水の中で流れに沿って下流へとなびきながら成長し、長さは2m近くなることも。その名の通り梅の花に似た1cm~1.5cmくらいの小さく可憐な白い花を咲かせます。花期のピークになると群生地一面に咲き乱れ、まるで緑地に花柄のカーペットのようで壮観です。葉は糸状、茎は濃い緑色で、根は白いひげ根状です。根は節から出て河床)に定着します。節からは長い柄も延びて、これが水面上に出てその先端に5枚の花弁を持つ花が咲きます。花期は長く、初夏を中心に春から秋まで。種子から増えるだけでなく、切れた茎の節から根が出て新たな株になったり、水中茎の成長によって繁殖したりします。
別名は「ウメバチモ」。学名の「Ranunculus nipponicus (Makino) Nakai var. submersus H. Hara」には、2023年NHK連続テレビ小説『らんまん』の主人公、牧野富太郎(まきのとみたろう)博士の名前も。植物分類学的にはキンポウゲ科キンポウゲ属バイカモ亜属に属し、イチョウバイカモの亜種とされています。キンポウゲ科には約50属400種の植物がありますが、水面下に沈んで完全な水中生活に適応しているのはバイカモとその仲間だけです。バイカモの花は古くから日本人に愛でられ、俳諧の世界では「藻の花」というと主にバイカモやその仲間のことをさし、歳時記では仲夏(旧暦の5月=新暦の6月前後)の季語になっています。与謝蕪村はこんな句を詠んでいます。「藻の花や
雲しののめの 水やそら」雲が映って水か空かわからないような清らかな水面に、バイカモの花が咲く様子がイメージできますね。
梅雨が明けてしばらくすると、土手の斜面や道端に二枚貝にも似た可憐な青紫色の花を咲かせたツユクサ(露草)の群生がみられます。ツユクサは一年草で、高さが10~20
cmくらいになり、直立することはなく、茎は地面を這って分枝しながら増殖します。葉は2列で互生し、卵状皮針(ひしん)形長さ5-7 cmほどになります。広心形の苞(ほう)の中から、花弁を突き出すようにつけます。大きく重なった2枚の青紫色の花が目立ちますが、実はよく見ると小さな白色の花がもう1枚下部にあるのに気づきます。その形や色から「帽子花(ぼうしばな)」、「青花(あおばな)」ともよばれ、花の汁を衣にこすりつけて染めていたことから古くは「着草(つきくさ)」とも呼ばれていました。この花は、早朝に開花して午後には萎(しぼ)んでしまう短命花です。
ドクダミは、日本から中国,ヒマラヤ,東南アジアにかけての広い地域に分布し,やや湿り気のある林床や日陰地に生育している多年生草本植物です。花は6~7月頃に咲きますが,穂状につく花はとても小さく,花びらやガクはありません。これらはまるで一つの花のように見えますが,花びらに見えるものは花序の基部につく葉が変化した総苞です。和名のドクダミは毒矯め
(どくため) の意味があり,その薬効に由来します。薬用には開花期の地上部を用います。生薬名をジュウヤク (十薬) といい,利尿薬や消炎薬として利用します。十薬という生薬名の由来は,馬がかかる十種の病に効果があるという江戸時代の言い伝えによるようです。
日本では独特の臭いがあるためにあまり好まれませんが,ベトナムではハーブだけでなく,野菜としても利用され,春巻きなどの具に加えられているそうです。日本人の感覚からすると,まさに驚きですね。アジア各国で広く利用されているコリアンダー(コエンドロ)も特有の香りを持ち,日本の食文化では初めは戸惑いがあったようですが,次第に馴染んできたようです。近い将来,日本でもドクダミがハーブや野菜に仲間入りする日がくるかも知れません。また,ドクダミは日本では雑草に近い存在ですが,外国では花壇や庭園を彩る園芸植物として活躍しています。海外旅行の際,訪れた国の植物園をご覧になって下さい。花壇の縁取りとしてきれいに植え込まれているドクダミを目にすることでしょう。
水辺にごく普通に生える多年草です。ときに、野原や林縁など、土がそれほど湿っていないような場所にも見出せます。地下茎と、地表を這う茎を横に長く伸ばして、節々から根と葉を次々と出しながら旺盛に広がっていきます。名前のセリは、まるで競り(せり)合うかのように葉を出しているように見えることから来ていると言われます。初夏になると茎が立ち上がりはじめ、草丈は30cmから50cmほどにまでのびます。7月から8月頃、茎の先に小さな白い花を傘状につけます。花びらは中心から山折りにしたように折りたたまっており、先端は軽く切れ込みます。セリは、さわやかな香りとしゃきっとした食感が魅力の緑黄色野菜で、スーパーの店頭にも普通に並んでいます。また、冬の間も青々とした葉を出していて、風邪予防や胃の疲れを取る効果があるとされ、春の七草のひとつとして七草粥にも入れられてきました。ただ水辺には、タガラシなどの有毒植物も生えているため、セリ摘みの際は混入しないように気をつけましょう。
カンゾウはほぼ日本全国の野山に自生している野草で、フキノトウが出る時期に少し遅れて芽を出します。ノカンゾウは夏にユリによく似た赤、またはオレンジ色の6枚の花弁を持つ花を咲かせます。近縁種のヤブカンゾウの花は花弁が八重になっていることで区別できます。若芽の状態ではノカンゾウとヤブカンゾウを見分けることはできませんが、いずれも同じように食べられます。また、夏の暑さの激しい時期が花期で、花やつぼみも山菜としても食べられます。カンゾウはワスレグサ属の一種で、日が昇ると咲き始め、夕方には咲き終えてしまう一日花です。ワスレグサ属は美しい花がたった1日しか咲かないことに由来しています。カンゾウの若芽は強い香りや苦み、エグミなどのクセはありません。一般的には加熱調理して食べます。食感はネギに似ていますがぬめりはありません。
オオバコは、山野や道端などで全国至る所で見られる多年草で、車の轍によく生えることから車前草(シャゼンソウ)ともいわれ民間薬に使われています。葉は卵形で、葉脈は平行に入っています。葉を根本からロゼット状に展開し、4月~9月頃まで花茎を伸ばし小さな白い穂状花序の花が咲き、花後の蒴果からは種子が採れます。その種子を漢方では車前子(シャゼンシ)と呼びます。この仲間は200種類ほどあると言われ、世界各地で古くから“万能のハーブ”として利用されてきました。ハーブ名はプランテーンです。現在各地で野生化している幕末に渡来したヘラオオバコP.lanceolata、日本の在来種でありながら名前はトウオオバコ、その変種とされるヤツマタオオバコ等も、同様に用いられます。全国どこにでもあるので、オンバコ、オバコ、ギャロッパなどの方言での呼び名が多くあります。
アカザは、アカアサ(赤麻)やアカクサ(赤草)、アカナ(赤菜)などから転訛したという説、新葉の基部を仏が座る赤い台座に見立てたという説などがあります。従来の分類ではアカザ科とされていましたが、APG分類体系ではアカザ科は全てヒユ科に合一されました。インド原産で古い時代に中国経由で渡来し、食用として栽培されたものが野生化したといわれています。いわゆる史前帰化植物である大型の1年草です。茎に明瞭な縦筋があって直立し、高さ0.5~1.5m、太いものは直径3cmにもなります。農村の畑や荒れ地に生えますが、今は多くありません。若葉の表面が赤い粉状の粒で被われるのが特徴です。ホウレンソウと同じ仲間で食用となり、お浸しやご飯に炊き込んであかざ飯として食されました。なお、継続的に多食したあと日に当たると日光皮膚炎を起こすことがあります。茎は軽く、下部が木質化するので、大きなものは杖として利用され、この杖を使うと中風を予防できると信じられていました。
日当たりの良い草地環境を好み、市内では堤防斜面に特に多く見ることができます。雌雄別株の多年草です。葉の根もとは矢じり形になっています。色は緑色ですが、寒さなどの影響で赤みがかった色になることもしばしばです。葉にはシュウ酸が含まれ、かじると酸っぱい味がします。ベニシジミという蝶の食草になっているため、スイバの多い場所ではたくさんのベニシジミを見ることができます。春に茎をのばし、花の穂をつけます。花期の茎のかたさは1m近くに達することもあります。雌株の花穂はやがて果実の穂に変化します。果実は熟すと赤みを帯びていっそう目立つようになります。スイバの葉はかじるとさわやかな酸味があり、日本でも山菜として摘んで利用することがあります。 ヨーロッパでは、「ガーデン・ソレル」や「オゼイユ」などと呼ばれ、ハーブや野菜として広く栽培されています。サラダやソース、肉・魚料理などに利用できますが、ホウレンソウと同様にシュウ酸を含むため、下ごしらえが必要です。
ヒメオドリコソウはシソ科の越年草です。草丈10 cm~20cm程度。淡いピンク色に薄紫を混ぜたような色の花を咲かせ、四角い茎に対生にスペード型の葉をつけます。上の方の葉がうっすらと赤みを帯びているのが特徴です。ヒメオドリコソウは明治時代にヨーロッパから入ってきた外来種です。日本全土で見られます。道路脇や花壇の隅、畑のあぜ道、空き地など、身近なところに自生しています。群生している姿はとても可愛らしく、見ていて飽きません。ヒメオドリコソウの名前の由来は、オドリコソウという白い花を咲かせる植物に似ていることに拠ります。加えてオドリコソウよりもサイズが小さいことから、小さいという意味の「姫」が付いてヒメオドリコソウと名付けられたそうです。オドリコソウの名前の由来はその草姿が笠をかぶった踊り子に似ているからとのことです。ヒメオドリコソウはオドリコソウよりも草丈低く、花がピンク色なので見分けがつきます。
河川敷や水辺に普通に見られる落葉低木です。地下茎を張り巡らせてどんどん増えていくため、あたり一面の群生となることもしばしばです。特に河川敷では「ノイバラ群落」と呼ばれるノイバラを中心とした植生によって構成される環境も見られます。よく枝分かれをしながら2メートルから3メートルほどになりますが、枝はそれほど太くないため、成長とともに次第にしなだれていきます。もたれかかったり、地を這うようにのびたりすることもしばしばです。枝には鋭い刺があり、うかつにさわると痛い思いをします。初夏に直径2センチメートルほどの白い花を多数咲かせ、最盛期にはあたり一面バラの香りが漂います。訪花昆虫にも人気が高く、ハナムグリやチョウ、ハチの仲間などさまざまな昆虫を見ることができます。秋から冬に小さな丸い赤い果実ができます。市内全域にごく普通で、今のところ絶滅の心配はありません。しかし目の敵にしすぎるのは考えもの。地域に咲く野の花として、やさしく見守る気持ちを大切にしたいところです。
園芸ではウマスギゴケとオオスギゴケがスギゴケとして扱われています。性質は同じで、双方に肉眼的な区別ができません。コケ庭では石組みともよく合い、もっともよく使われる主要なコケです。低地から山地のやや日陰地の湿った地上や腐植土のたまるようなところに群生します。また山の急斜面の岩盤の多いところなどにもみられる大型の種類です。茎は5cmから20cmになり針のようにかたく、枝分かれはしません。葉は茎の中程から先によくつきます。湿ると葉を広げ、乾いてくると茎にくっつくようすぼまります。生育し続ける種類で、春には芽先から再び伸び続けるため、主茎の長いものは20cmのものまであります。日当たりの良い場所や圃場のものは黄緑色で葉も小型になります。生育環境により葉の大きさや色に大きな違いが現れます。
ヒデリコは、いわゆる「水田雑草」のひとつで、水田とその周辺でごく普通に見られる1年草です。草丈はふつう30センチメートルから40センチメートルほどになりますが、稲刈り後の水田では10センチメートルにも満たない姿で穂を出していることもあります。夏から秋にかけて茎の先に、直径は3ミリメートルから4mmほどの丸っこい小穂がたくさんつきます。小穂から飛び出している白い糸状のものは雌しべの柱頭で、柱頭の先は3つに分かれています。タネの大きさは0.6nnほどでルーペで見ると表面に粒状のものがポチポチとついています。ヒデリコを漢字で書くと「日照子」です。これは、夏の日照りにも負けずに元気に葉を広げている様子から来ています。